1月24日(金)

火曜日に口から出血して、毎日のようにルナの口のまわりが真っ赤に染まる。まわりを血の海に変えていったんだ。
泣かないから痛さも感じなくなったんだろうか?
見ている方としても、どうすることも出来ずに、ただただ眺めていただけ。
この日から日に日に体が衰弱していったように思う。
いや、ちょっと変な傾向がでだしたのは1ヶ月前からだったんだ。
ピアノと壁のすみに体を入れてうずくまっていたり、ある時は、タンスと壁のすみに体入れていたりと、そういう事が頻繁に起こり出したんだ。
動物は自分の死期が近づくと、誰にも見せずにひっそりと死ぬらしい、ルナの怪訝な行動もその一種ではないかと思っていたんだ。

彼女が口から血を出してから、正月にみかんを買った時のダンボール一つを用意した。その中に小型のコタツを入れて、毛布を入れて仮設のルナ部屋を作ったんだ。あの日から彼女はそこで寝起きをすることになった。
※ダンボールの壁の一方向のみ切りとっている。

24日に私が仕事から帰ってきた時は、変った事はなかったように思う。
いつものように深夜ネットをしている時に、下の階からルナの弱わ弱わしい泣き声が聞こえてきた。私は不思議に思ったんだ。
聞いた事のないような泣き声だったから、いつもは玄関のところで、響き渡るような泣き声だったのだが・・・・。
どうしたんやろ?と心配で私はネットを中断して下の階に恐る恐る降りていくと、体がダンボールの中に半分入った状態で、前足を必死に動かしてるがからまわりしている状態だったんだ、その部屋はフローリングのリビングなんだが、地面に前足をかいているといった感じで、部屋にシャカシャカシャカという音が響きわたっていた。
もう起き上がる事も出来ないのであろうか、自分の意思で立ち上がれないまでになってしまったなんてと思うと、なんとなく悲しくなってしまった。
ルナのお腹のへんに手を入れて持ち上げてみると、なんとか立つことが出来たんだ。しかし、足が震えているように体の振動が激しくなっていた。
よくテレビで馬が子馬を出産して、子馬がはじめてたち上がる時のような感じに似ていました。

そう思っていると、一歩も前に進まないままに、体が落ちる。そしてルナは顔面を地面にうつことになる。
文章では説明しにくいが、腕立てふせで腕の力がなくなってしまうと、重力によって顔が真っ先に地面に落ちる感じといったら理解してもらえるだろうか。ルナの前足も自分の体重をもはやささえることが出来ない状態になってしまったのだった。
とりあえず、彼女を抱いて外に出し、お腹に手を入れて体重を半分程、私が支えてやる感じでトイレをさした。
そして、ダンボールに入れてあげて毛布をかけてあげた。


1月25日(土)
昼頃起きて下の階に行くと、ルナはストーブの前で寝転んでいた。
ストーブの前が、彼女のお気に入りの場所なのだった。
私は両親と昼食をとった、彼女には私達の食事という儀式も、どうでもいいように写っていたのだろうか?なんの反応も示さなかった。
ルナは私達が食事をすると、いちいち反応して足にまとわりついていたんだ。そして物をねだるように、いつも足もとにチョコンと座る。
で、じーっとこっちを見つめているんだよねえ。食事の終盤になると、ルナはたち上がって私の膝に前足をのせて、カキカキするんだ。
『ちょうだい。ちょうだい』という意思表示なのだろう。
夏にされるとかなわんのだ、これがね。ズボンが薄いからルナの前足の爪で膝が痛くなるからさ。『ええかげんにせえ~』って感じ。

この日、食事が終わってストーブを消すと、彼女は立ち上がりフラフラとした足取りでコタツの方に向かったんだ。
今にも倒れそうな弱弱しい体で・・・・。
体を見ていると辛くなってくるんだ。
息遣いが荒くなっているからさ。呼吸するのでさえも辛いように見えるんだ。お腹を見ると、というか背中から見るとなんだけど、呼吸をするたびにお腹が大きくなり、そして小さくなるんだ。

(  )→ ) ( こんな感じ

これを見るだけでも息をするのでさえも辛いように思うんだ。
息遣いも荒いしさあ。でも、それを見ているだけで、どうする事もできなくて辛くなってしまう。
立って前に進もうとしても、ヨロヨロになりながら、前に進まず、斜め前に進んでしまうんだよね。だから目的地であるコタツまでなかなか辿りつかない。
この日も深夜まで私はネットをしていたんだ。
そしたら、いつものように下の階から、ルナの鳴き声が聞こえた。
最近は、泣く前に分るようになってきたんだ。それは玄関に辿りつくまでの廊下の足音で分ってしまうんだよね。
カチャ、カチャ、カチャっていう音が下の階から今日も聞こえてきた。
その足取りも重いように感じてしまう。
私は急いでネットを切って下の階に下りていったんだ。
ルナは玄関でちょこんと座っていた。
もう、いいのに。
そんなに弱っているんだから、部屋のどこで、おしっこをしてもいいのに。
昔からの習性なんだろうか、トイレをする時は、玄関まで歩いて行っては、『外に出して~』って泣く。
『外に出して~、外に出して~』って泣き続ける。

私は彼女を抱いて庭に出してあげる。
彼女が深夜にトイレをするようになったのはこの2ヶ月くらいなのだが、彼女を外に出している間、私は庭に立ち、星を眺める事にしていたんだ。
この日も夜空を眺めていた。
寒いんだけど、一時のことだしね。この日は、空気がすんでいたからだろうか、凄く奇麗に見えたよ。
私が星を眺めていると、ルナは「う~。くぅ~」って私の足にまとわりついてきた。「何しているの?もう終わったよ。寒いから早く入ろうよ」と言っているように、私には思えた。

彼女を抱いてあげて、ダンボールに入れてあげ、毛布をかけてあげ、そして電気を消した。


1月26日(日)
この日、夢を見た。
私の足元にルナらしき犬がまとわりつく夢だった。
まだうちに来たての小さい頃の姿だった。
夢の内容は覚えてないんだけど、なんか凄い懐かしい感じがしたんだ。

休みの日は昼食の用意が出きると、私が親に起こされるというのが休みの日の日課あった。
この日も昼頃に、親が下の階から「ご飯できたでぇ~」という声を聞いて、起きた。そして下の階に下りてみると、昼食がテーブルの上に並べてあったんだ。で、私がイスに座って、親の第一声を聞いた。
「ルナ死んだでぇ」
「え?」
「見てみい。」
「朝起きたら死んでたの?」
「いや。食事作っていた時はまだ生きていたよ。ほん、さっきやで。痙攣みたいなのが起きたみたいで、それで動かなくなったんよ」

私はルナの体をさわってみると、少し温かった。
目がパッチリとあいている。
ダンボールの中に半分体を入れた状態で・・・・。
その日の家族との昼食は、誰も一言も言葉を発しなかった。
彼女と過ごした15年という歳月をみんな思い出しているんだろうか。
食事も、ただ胃に流しこむだけという作業に終始していた。
味なんて分らない。
ただただ涙だけがとめどなく出てきたんだ。
ふと、母親を見ると、私と同じような姿になってしまっていた。
父親も同じだった。

携帯メールで、妹にこの事を連絡してあげる。

「今日の一時前にルナが息をひきとりました。静かに死んでいきました。ご冥福を・・・。」

それを見た妹からすぐに電話が家にかかってきた。
父親が出たのだけど、泣いていたようだ。
妹の泣き声なんて久しく聞いていなかったなって、そんな事を私は思っていた。
ルナは妹が小学生の6年生の時に知り合いから譲りうけたんだ。
そう妹の為の犬だったんだよ。
妹は、今月の16日で27歳になった。
飼い出したのが、11歳の時、亡くなったのが27歳の時だからルナは15歳と半年くらいの命だった。
ルナは妹のためにうちに来て、妹のために生きたんだよ。
そう考えると、わかる気がする。
妹の青春とルナの生きた時代がリンクしていたからさ。
そして、妹も2年前に結婚して、そして去年に子供を産んだ。
双子が産まれてうちに来た頃には、ルナも目に見えて衰えだしていたから、新しい命を見て、ルナも終焉を迎えたんじゃないだろうかと、私はふと思うんだ。

数時間後にまた妹に携帯メールを送る。

「ルナをちゃんと焼いて埋葬しましたよ。また、こちらに来た時は見にいってあげてね。」

妹からの返信メール

「うん。また里帰りした時、参りに行くよ。ルナちゃん天国に行ってしまったのね・・・。15年も生きて頑張ったよね。加奈が小6からやから長生きしたよね。色んな想いでがあるよ。。。」


埋葬をして帰っても、いつものようにルナは玄関でしっぽを振って迎えにきてはくれなかった。夕食時にもまとわりつく者は、もういなかった。
テレビを見るために寝転んでいても、私の腕を舐める者もいなくなってしまった。本当にいろんな事があったよなあ。
明日からどんな顔をして過ごせばいいのだろうか。
妹が家からいなくなった時、さほど何も感じなかったが、ルナがいなくなった今は、寂しい気持ちになっている。
ルナのいない日常生活、ルナがうちにやってくる前の生活、想いだそうとしても思い出せないんだ。ルナのいた記憶の方が大きすぎて・・・・。



※一部作ってます。妹の名前は仮名です。私は夢なんて見てません。
私も両親も泣いてなんていません。でも、これを書いていると涙目になっているのは事実です。ご冥福を・・・。